3.11から未来の災害復興制度を提案する会(311変える会)は、東日本大震災やその後の大きな災害から得られた教訓を基に、災害復興に係る関連法令の改正を提案しています。2023年6月には院内集会が開かれ、同会が超党派の国会議員に法改正の要望を行いました。
311変える会の提案は、多岐にわたりますが、このうち、『民間と連携した被災者支援を基本とする』および『社会保障関係法に被災者支援を位置づけ平時から人材育成を行う』の2項目では、地域NPOを含む民間と地方自治体等との連携を平時、発災時を問わず期待しています。本稿はこれらの提案が実現した時に、地域のNPOにとって、実効性のある対応はどのようになるべきかを考えます。さらに、発災時に備えた体制を既に整備している岡山県における取り組みを紹介します。
*院内集会の様子は、本サイト「誰も取り残さない」被災者支援のために 今こそ災害法制の改正をでも掲載。
民間との連携には発災時の課題の洗い出しが必要
現行の法令では、被災者支援の活動は、すべて被災自治体が担うことになっています。同会の『民間と連携した被災者支援を基本とする』という提案は、平時にサービスを担う企業や非営利団体のプロフェッショナルが、被災者支援においても専門分野を担う方が合理的であり、被災者支援活動の担い手はマルチセクター化すべきという趣旨です。加えて、この提案には、『国、地方公共団体及びその他の公共機関は、災害発生前から民間組織と適切な役割分担を取り決め、災害対応に至るまで連携に努めねばならないことを規定すること。』が含まれます。
この『適切な役割分担』を行うためには、まず、それぞれの地域で、災害時に必要な具体的な内容を洗い出してリスト化し、関係者間の共有と合意が望ましいと考えます。このような作業を行わないで役割分担を行った場合、発災時に、思わぬ支援の抜け漏れが生じたり、必要な支援活動の実施が事前に想定しない事象のために困難になったりする可能性があるからです。地域のNPOもこのプロセスから参加し、活動から得た知見を反映することが望ましいと考えます。
課題の洗い出しをどう行うべきか
しかし、このようなプロセスを、個々の地域ごとに、ゼロから実施していくのは地域によっては困難であることも予想できます。このため、例えば、全国的なモデルの作成や、先行する地域の事例の共有等が考えられます。ただし、個々の地域事情の反映や、関係者の当事者意識の醸成の観点から、全国的なモデルや、他の地域の取り組み例をそのまま使うのではなく、それぞれの地域で関係者が納得のいくものを作り上げることも大切であると思います。このような検討を行う際には、発災時に支援の抜け漏れが生じることなく、かつ実際の現場の状況に応じた柔軟な対応のために、過去の災害での経験を踏まえた議論が望まれます。さらに、必要とされる被災者への支援は、発災直後と復興を進める過程で変わっていくことについての考慮も必要であり、この観点からも過去の災害での経験に学ぶことは多いと考えられます。大きな自然災害が近年多発していることを考えると、このような、必要項目の洗い出しとリスト化をどのように行っていくかについては、法令の改正が実現する前であっても、地域で検討を開始することが望ましいことであると思います。
棚卸が対応策の改善につながる
発災時に必要になる事項のリストを使い、地方自治体、地域NPO等の関係者の誰が、どのように対応するのかについて棚卸を行うと、地域によっては、現在の体制が不十分なため発災時に被災者支援の抜け漏れが生じる懸念や、重要なロジスティック上の問題が浮かび上がることもあるかと思います。しかし、このような棚卸を行うことで、自治体による追加の対応や、このような発災時の対応に関し、地域の企業などに協力を依頼するなどの事前の対応が可能になります。一方、関係者が自分たちの既存の対策や要望を持ち寄り『がっちゃんこ』しただけでは大きな改善にはつながらない可能性が高いと思います。この観点からも地域のNPOが、議論に積極的に加わることが大切であると考えます。
地域のNPO支援センターが果たせる役割
地域における、発災時の必要事項の洗い出しや棚卸の過程に、人的リソースが不足しがちな個々のNPOが直接参加するのが困難であるのであれば、地元のNPO支援センターが自治体や地域の関係者とのつなぎ役となることが考えられると思います。加えて、大規模な災害の場合、地域内での対応だけではなく、全国レベルで活動する団体や他地域のNPOが一定の役割を担うことも想定されます。個々の団体に比べ、より幅広いネットワークを持ちうる地域のNPO支援センターがつなぎ役を担うことで、これらの地域外の団体を、事前に地域の体制の一部として組み入れたり、発災時の対応を円滑にしたりする効果も期待できます。各地域のNPO支援センターが、今後このようなつなぎ役を担うためには、過去に災害を経験した地域のNPO支援センターが、知見を共有し、サポートしていくことが今後検討されても良いと思います。
発災時の福祉サービスの継続
311変える会は、さらに『社会保障関係法に被災者支援を位置づけ平時から人材育成を行う』ことを提案しています。この提案には『災害発生時に、都道府県及び市町村が、社会福祉関係団体、NPO 及び士業団体等の参画を得て、訪問型を含めた相談支援及び各種支援制度の利用援助を実施することを義務化する(以下略)』が含まれており、平時に実施されている各種の福祉サービスが発災時にも滞りなく行われるべきであるとの趣旨です。これらのサービスに携わるNPOは、他分野の団体に比べ、日ごろから行政との関わりが密接であることが多く、同会の提案が実現した場合、具体的な対応策に関する議論は比較的円滑に進むのではないかとも想定できます。しかし、大規模災害時には、担い手の確保や、ロジスティックス等の様々な分野で事業の継続を困難にする事象が表面化することは明らかであり、これらのサービスに従事する団体も、地域全体での被災者支援に関する議論に参加していくことが重要であろうかと思います。そしてその棚卸結果や対応策を踏まえたうえで、地域全体での連携についての演習や、福祉サービスについての講習等を平時から行い、発災時に福祉サービスの担い手となり得る地域の人材を幅広に確保しておくことが重要であると考えられます。
岡山県における取り組み
ここまで、311変える会の提案内容を基に、地域での対応について論じてきました。これらの点に、2018年7月の西日本豪雨が甚大な被害をもたらした岡山県では、先駆的に取り組んでいます。
同県では、発災後、「災害支援ネットワークおかやま」が設立され、現在、地元の中間支援組織である岡山NPOセンターを事務局とし、様々な分野のNPO、士業、社会福祉法人、企業、大学等の約200の民間組織が参加しています。さらに、岡山県を含めた6つの地元自治体関係者が評議員となっています。まさに、同ネットワークが目的とする「岡山県内において災害時の民間による支援活動を効果的かつ協働して行うために、平時・発災時問わず、広くネットワークを組み、被災地の状況や各自の取り組み共有、行政との連絡調整、協働での取組みの検討と創出などを行うことにより、被災時に誰ひとり取り残さない支援の実現を目指します。」の実現に向けた体制であると考えられます。
さらに、同ネットワークでは、「避難所・建設仮設生活支援」「物資支援」等の5つの専門部会に分かれて災害時に備えた活動を行い、加えて月に一度関係者全体の情報共有会議を開催しています。平時から次の災害に備えた取り組みを行っていることが理解できます。
また、岡山NPOセンター独自の活動として、これまでに避難所やボランティアセンターで必要とされたものをリストアップし、将来の発災時に、企業が提供することができる可能性のあるものを登録するデータベース「できるかもリスト」の普及に取り組んでいます。この取り組みは、前述した、発災時に必要な事項の棚卸とその対応を行うにあたってのモデルとなるのではないかと思います。
地域社会に信頼されるNPOだからできること
地元に密着した活動を行い、地域社会の信頼を得ている団体だからこそできる、被災者支援があると思います。であるからこそ、平時の地域社会における備えに地域のNPOが主体的に関わることが重要であると思います。さらに、地域のNPO支援センターは、地域の団体と自治体とのつなぎ役として大きな役割を果たせるのではないでしょうか? 311変える会の重要な提案が、今後速やかに法制化されることが望ましいことは論を待ちませんが、日本においては次の大きな災害がいつ起きても不思議ではありません。法令の改正の前であっても、それぞれの地域で、具体的な対応策についてシミュレーションを行い、対応を開始することが必要なことであると思います。この観点から、岡山県における取り組みは、他地域への一つのモデルとなると思います。
筆者たちは日本NPOセンターの職員ですが、本稿はすべて筆者たちの個人的意見です。本稿において、311変える会による提案内容を議論していますが、それらはすべて、同会に確認することなく筆者たちが独自に行ったものです。日本NPOセンターは同会の事務局を共同担当しており、日本NPOセンターの常務理事の田尻佳史氏は、同会のコアメンバーの一人です。加えて、本稿における災害支援ネットワークおかやま、および岡山NPOセンターの活動に関する記述は、両団体のホームページ等で公開されている資料を基に、筆者たちが独自に行ったものです。岡山NPOセンターの代表理事の石原達也氏は、日本NPOセンターの理事です。