【「民都・大阪フィランソロピー会議」の背景】

非営利の世界は第二次世界大戦前までは一つの制度でした。戦後特有の事情から、学校法人、社会福祉法人など省庁別の法人制度ができあがりました。これは他国にはない不思議な現象です。法人格別の制度によって、会計基準もそれぞれに分断され、法人格を超えた合併なども、そう簡単にはできなくなっています。それ以上に、アイデンティティという文化面でも分断が大きくなっているのではないでしょうか。その中で、NPO法人は活動領域を公益法人とほぼ同じ「一般的な制度」としてスタートしながら、公益法人制度を反面教師として発達してきました。最近になって、「ソーシャル系」と自認する団体は、同じように人件費に不安を感じさせるNPO法人を反面教師として、人件費の確保や組織の持続性を強調し始めているようです。

平成 28 年度の民間非営利団体の規模(支出ベース)は、全団体合計では 41 兆 8,531 億円で前年度比 3.3%増となっている実態があるのに対し、分断化した実態によって、政府でもない企業でもない「非営利ワールド」を見えなくしています。とりわけ、大阪のような地方から見ると「非営利ワールド」の分断化は、東京を頂点とする縦への結合として目に映ります。学校法人や社会福祉法人のように直接、東京の省庁と直結するものもあれば、NPO法人や「ソーシャル系」のように民間レベルで東京の統括団体に直結しているものもあるでしょう。

例えば、日本発祥の武道である柔道の統括団体である全日本柔道連盟は当たり前のように東京に存在します(実際にはもう少し複雑ですが)。この気分を「なんとなく東京」と呼びましょう。「なんとなく東京」と言う気分によって、国内で統括団体の所在地について十分な議論をすることなく、ほとんどすべての団体は統括団体を東京に設置しています。そのことによって、柔道の統括拠点が岡山にないことに疑問を感じないのと同様に、日本発祥の柔道の国際拠点やアジア拠点が東京にないことにも誰も疑問を感じなくなってきています。

こうした「なんとなく東京」の気分が「非営利ワールド」には充満し、分断された非営利のコップの中で各々「縦」に騒いでいる、と地方から見えます。東京という世界に冠たる巨大都市は国内非営利組織の統括団体の圧倒的な独占状態にあると同時に、国際統括組織がほとんど無いという二重性を抱え込んでしまっています。そのことは、東京の強さに隠れて日本全体の弱さを招いているといえるでしょう。

大阪は、この20年を別にすれば、「非営利ワールド」を常に牽引してきましたと言ってもいいでしょう。そのことは、旧制度の中で日本で唯一「コミュニティ財団」が誕生した場所であったことを例に挙げるだけで十分でしょう。日本NPOセンターの主要な事務局員が大阪からの出向者だったことも忘れてはなりません。

【民都・大阪フィランソロピー会議の誕生】

そこで、大阪では、「地方の代表」としてこの事態を憂慮した人たちによって、「民都・大阪フィランソロピー会議」が発足しました。大阪という「面」で分断された非営利セクターを、1つのものとして結集しようと考えたわけです。そこでは、学校法人、社会福祉法人、公益法人、NPO法人のそれぞれのトップクラスの理事長が集結して会議体を作ったのです。それは、すべての首都機能を東京に集中させるのではなく、フィランソロピーのアジアの首都を目指そうという壮大な計画です。

今のところ単なる会議体ですが、分断された組織を集合させるために、約2年間にわたる壮絶な準備と根回しとがあって、ようやく実現したものです。「縦」に繋がろうとすれば、仲間内を集めて拠点を東京に置けばいくらでも集めることはできます。しかし、分断されたものを「面」として集めることは、共通点のない人々に意義を繰り返し説明して行かねばなりません。実はそうした取組みこそ、今の分断された「非営利ワールド」には必要なことだと思っています。

また、これは、東京では実現不可能な会議体と確信しています。というのも、東京はそれぞれの省庁に繋がり、トップクラスの理事長を集めれば、省庁の会議体にならざるを得ないからです。他方で、そうした制約がない他の地域では、不可能ではありません。一朝一夕にできるものではありませんが、是非、この「大阪方式」を応用していただければ、東京以外でも実現は可能だと考えています。

【休眠預金等の活用に向けて】

「非営利ワールド」全体の海外の政策が、国内には小さな分断された世界に部分的に入ってくることがあります。最近、問題が指摘されている休眠預金等の活用にしても、一部の「ソーシャル系」という小さなコップの中で議論されたとしてNPO法人の方々は批判を強め、公益法人は何事もないかのように殻に閉じこもり、学校法人や社会福祉法人は情報すら正確に受け取っていないように見えます。

幸い、大阪は「民都・大阪フィランソロピー会議」があったおかげで、「非営利ワールド全体」としてこの問題を議論する契機ができたと思います。休眠預金等活用については、ある意味では日本の市民社会が試されているのであり、しっかりとした考え方を大阪のサード・セクターから出すことが重要であるということで認識が一致しております。

役所OB、企業OBを事務局の中枢に据えて、経団連が休眠預金等活用の「指定活用団体」を目指すことが明らかになりました。これが、経済界が出した「日本の市民社会の力量に対する回答」の一つでしょう。実質的にサード・セクター抜きの徹底した挑戦的な回答ではないでしょうか?大阪ではそうした自体にも憂慮し「民都・大阪フィランソロピー会議」を基礎として、「非営利ワールド」全体の回答の一つとしてサード・セクターを核として「指定活用団体」に手を挙げます。

「民都・大阪フィランソロピー会議」が東京一極集中という、最も深刻な社会課題解決に向けた、従来にない第一歩となることを確信しております。