記事は情報発信ボランティアプロジェクトのライターボランティアが取材・執筆をしています。
<取材・執筆>
渡辺 祐子  <取材先>NPO法人エイブル・アート・ジャパン 東京事務局 中塚 翔子さん ・東北事務局(仙台)坂部 認さん

「音楽(芸術)は無力だ」。東日本大震災の直後、世界的指揮者である佐渡裕氏は嘆いた。その後、被災地だけでなく日本中で芸術活動を中心に「華やかゆえ慎むべきこと」扱いとなっていった。しかし、徐々に復興活動が始まると、音楽や絵、ダンス、パフォーマンスなど、「アート」を通して寄り添う活動に尽力するアーティストが多数出てきた。被災地では音楽に励まされ勇気を得、彩のある絵に希望をもらい、一緒にパフォーマンスすることで活力が沸き上がり、それによって復興に立ち上がる姿も見えるようになった。

アートに、人々を支え背中を押すような自立・自律の支えとしての「力」があることを目の当たりにした。アートには「生きる力の醸成」がある。アートは「美意識」や「感受性」など内面的な視点で語られることが多いが、外に向かうエネルギーに満ちた逞しい力を持っているのではないだろうか。

1990年前半から、障害者のアート活動をはじめとした「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を提唱し、アートや人間の可能性を再発見する活動を展開するのが、「エイブル・アート・ジャパン(以下エイブルアート)」だ。ギャラリー運営や、鑑賞支援プログラム、誰でも参加できるアトリエの運営といった障害のある人もない人も一緒にアート活動ができる取り組みも行う。

エイブルアート東京事務局の中塚翔子さんと、東北事務局(仙台)の坂部認さんへ「障害のある人のアートの仕事」についてお話を伺った。中塚さんは、学生時代に障害者アートに出会ったことがきっかけで、建築デザイン業界からこの世界に入った。坂部さんは、大学では特別支援教育を専攻し大道芸人としての側面も持つ。

◆障害者の「アート作品」を企業も活用

障害者の創作活動は、生きがいづくり・脳機能のリハビリという目的や、経済的自立を支える授産製品生産が多かった。だが、最近は福祉レベルを超える、新たな表現スタイルのデザインとなって、一般企業の製品や広告などに採用されるケースが生れているのである。直感的に描かれる障害者のアートには、華やかな色彩や既存の概念にとらわれない個性的な表現など、アート本来の自由な心から沸き上がってくることをぶつけた作品も多数見られる。

エイブルアートは、障害のある人がアートを仕事にできる環境をつくることを目的に、(一財)たんぽぽの家(奈良)、NPO法人まる(福岡)と共同で「エイブル・アート・カンパニー(以下、カンパニー)を2007年に立ち上げた。障害のある人がアートを必要としている企業と出会うための橋渡しを行う。

◆プロのアーティストとしての仕事

カンパニーは2年に1回の公募制。当事者自身がアーティストとしてのプロフィールと作品を登録し、カンパニー・アーティストとして活動する。現在、全国28都道府県113名のアーティストが登録。作品は1万3000点を超える。

カンパニーでは作品をデジタルコンテンツ化して、使用したい企業に販売する。アーティストはロイヤリティが得られるという仕組みだ。取引企業と継続的なパートナーシップが結べるよう、情報発信やイベント開催などのプロモーションを行う。橋渡し役になるだけでなく、アート活動の過程において安心して取り組めるような「心のサポート」も行う。

◆アートを通じて新しい誰かと出会い社会と繋がる

アーティストといっても、作業所で仕事をして工賃と障害者年金で生活をしている人がほとんどだ。そこにアーティストの仕事が加わる。会社員の副業と同じだ。

中塚さんは「アーティスト活動だけで生計が立つわけではありません。でも、大きな意義は、新しい誰かと出会い社会と繋がりを持てることです。絵を描くことで新しい自分に出会い認めてもらえることはエネルギーになります」と語った。

普段は家族や施設の人、同じ障害を持つ仲間など出会う人も限定される人が多い。自宅で絵を描いている人もいる。作品を通して社会と関わり、関わることで成長できる。そこが、自分にとっても家族にとっても大きい。

仙台では、東北に拠点を置く企業からの依頼や〇〇市に在住のアーティストという指定もあるという。坂部さんは「その作品とともに名前や顔を出す、作品が採用されるということは技術を伝えることでもあり、誰かと知り合って価値を提供できるということです。サイン会などしている人もいるんですよ」と話した。

◆障害者が安心してアートに向き合うために

「ただ、アートの仕事がたくさんあるのが良いわけではありません」と中塚さんはいう。「うれしくて頑張り過ぎて生活や心のバランスを崩すこともあります。好きなブランドの仕事は緊張もします。障害を持っている方は、自分自身の精神面のコントロールも得意でない人が多いですから、各人の特長をよく見てペースに寄りそうことも大事なことです」。

中塚さんはこんなことも言った。「一般の人にとって当たり前のことができない生きづらさを抱えている人にとって、アートは便利なフィルターとも言えます。例えば、薬のカラを集めている人がいたとして、それをアートにすると面白い。アートというフィルターを通すことで、違いを認め合えるんです」。

人は誰でも多面性をもって生きている。アートそのものの力だけでなく、アートを介してその多面性や違いを認め合えたときや社会と繋がったときに、障害のある人もそうでない人も、可能性を見つけることができるのかもしれない。

◆「障害者アート」と呼ぶこと

障害者アートといっても、作品を見たときに、障害の有無が明確に分かれる何かがあるわけでない。なぜ「障害者」という装飾をするのだろうか。

2019年、文科省と厚労省が発表した「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」の中でも、「障害者による文化芸術活動を推進することは、ともすれば、『障害者の文化芸術』という分類・枠組みがあるという印象を強め、その他の文化芸術活動との分断を生じさせるのではないかの懸念があることも留意する必要がある」と課題として明記されている。

エイブルアートでは、「カンパニー・アーティスト」と呼称するため、「障害者アーティスト」という言葉は使わない。しかし、企業側からの要請があれば使うこともある。社会の中ではあえて使ったほうが知らない人に伝わる。意図的に使用すると、障害のある人にとって「自分も出て行っていいんだな」という勇気づけることにもなるという。

◆ 課題は支援団体の資金面の持続可能性

「エイブルアートのような中間支援団体は、助成金などを得ての単年度事業スタイルが多い。継続性を確保することが課題です。相談支援事業や企画を各福祉団体が独立して実施できるよう、人材育成の必要性がある」と東北事務局として障害者芸術活動支援センターの業務も担う坂部さんは言う。

障害者アートの活動はまだまだ草の根的であり戦力も足りない。企業がCSV活動やESG投資の一環として、こうした団体の人材育成や経営サポートをすることは考えられないだろうか。もちろん、イベントのノベルティや自社商品のデザインの中に作品を取り入れることも、企業の影響力の大きさを考えると大いに期待したいところだ。

◆アートを通して人や社会と関わること

中塚さんが今後の展望を語った。「アートを通して障害のある人もない人も自分の可能性を試せる場を提供したい。企業とのやり取りの中でも互いに学びがある。個人でも団体でも、支援するとかしないにあてはめるのではなく、互いに学び発見することを楽しんでほしいです。やりたい人が自由に運営に関われるプラットフォームになりたいので、一緒にお茶を飲むような気持で、興味本位で来てもらいたいです」。

坂部さんは「社会制度やコミュニケーションなど、本人の要因でないところで不利益を被っていることを変えたいという思いがある。本来ならその人の価値観に合わせて援助すべきだが、生活規範に合わせてのトレーニングとなってしまいがち。その点、アートは個人の価値観を肯定しやすい」と思いを語った。

障害者にとってのアートが持つ生きる力は、自分自身の可能性に出会えることであり、「アートを通して人や社会と関わること」、「アートを通して価値を提供できること」だ。そんな力の発揮ができるように、障害者の方の制限をサポートすることは大きな役割だが、単にサポートするたけでなく互いに学び尊重しあえる関係を作ることが重要だ。

2019年に策定された「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画」は3年間を対象としているが、実現できれば素晴らしい内容がたくさん盛り込まれている。だが、芸術活動以前に、日常生活での物理的なバリアフリーの対応もまだまだ足りていない現実を考えると、オリンピック・パラリンピックに乗った一時的な取り組みで終わることがないよう、団体への支援や企業・一般市民への啓蒙や働きかけを継続的に行い、計画を確実に進めていくことに期待したい。

2 のコメント

  1. なんだろうかなぁ。
    ここ20年ほどしょうがい者美術を素人として見てきたが、顕在化して誰でもアクセスできる様になったことは素晴らしいと思うが、質においては玉石混交で展覧会のクォリティがとてつもなく低いものもある。
    オリパラで盛り上がるのはいい事だと思うが、盛り上がった後政府が梯子を外した時のダメージを考えると、ブームとして取り組んできた施設が利用者に対してどのように責任をとるのか問題も有ると思う。
    また、施設の整備費用や人材育成雇用の継続について熟慮すべきだとも思う。

    猪口雅夫
    1. 猪口様

      コメントをありがとうございました。商品として見た場合の質に関しては、ご指摘のことも否めない場合もあるかもしれません。今回ご紹介したエイブル・アート様の場合、原画をモチーフとしてプロのデザイナーによりデザイン化したうえで商品に使用しているという点が少し異なるということを付け加えさせてください。

      政府の動向はご指摘の通りとも思います。人材育成や事業継続(資金含め)に関しては、助成なしでどう展開するか、どこの団体様も苦労されているようです。特にアートスキルの支援は一般職員では難しいですし、アーティストであっても今度は障害の方への配慮を学んでいただく必要があるので、簡単にはいかないですね。

      渡邊祐子

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