<取材・執筆>竹林 徹  <取材先>口友会(口唇・口蓋裂友の会) 会長 佐野 智さん 会員の皆さん

生まれつき口唇(くちびる)や口蓋(口の中の天井部分)に割れ目がある、口唇口蓋裂という疾患がある。日本での有病率は、約500人に1人とされる。ちなみに、本稿を執筆する筆者も当事者である。当事者全体にどんな困難があり、それに対して当事者団体はどのような取り組みをしてきたのだろうか。最も長い歴史と大きな規模を持つ当事者団体の一つ「口友会」(正式名称:口唇・口蓋裂友の会)の事務所を訪ね、会員の皆さんにお話を伺った。

口唇口蓋裂の困難とは

口唇口蓋裂で生まれた子どもは通常1歳半頃までに割れ目を縫い合わせる形成手術を受けるが、口や鼻に歪みが出たり、口蓋に小さな穴が残って声が漏れてしまったりという問題が起きる。とくに学生時代にはそのことをからかわれてしまうことや、時にイジメに発展することもある。「同級生に口や鼻の形をからかわれた」「声が聞き取りづらいと言われた」という経験は自分自身あったし、他の会員の方からも同じような体験を聞いた。

ただ、現在は治療技術も発達し、一般の人と見た目も機能もほとんど変わらないという人もいる。一括りにできない点は強調したい。

また、本人と同じくらい支える家族にも負担がかかる。これは口唇口蓋裂に限らないことだと思うが、親は子どもが生まれてくるまでその疾患に対する知識がほとんどないことが多い。そもそもどんな病気なのか。どの病院にかかるべきか、手術はどうすれば良いか、かかる費用はどれぐらいか。多くの情報収集と選択をすることになる。また、口唇口蓋裂の治療は、発音訓練などの言語治療・複数回にわたる形成手術・歯科矯正などを成人になるまで継続的に行う長期戦だ。親は病院通いなどずっと伴走をしなければならない。

口友会は“前を向ける”場所

そうした困難を抱える当事者を支える「口友会」は、1970年に1人の母親の呼びかけにより発足した。現在の会員数は全国に500名ほどで、地域ごとの活動もある。親だけでなく口唇口蓋裂を持つ本人も対象となっている。会員同士の交流会や電話相談、コロナ禍で一部ストップしているというものの医療関係者を招いての講演会など幅広い活動を行っている。

会員の皆さん、右から3人目が会長の佐野さん

「ここにいる人は、みんな前を見ている」と語るのは、会長の佐野智さん。佐野さん自身もある辛い経験があったが、入会して前を向くことができた。

「小学生の時には同級生に口や鼻の形をからかわれて、泣きながら帰ったなんてことがありました。吃音にも悩まされましたね。31歳の時には、結婚を考えていた相手の親に『うちの娘は障がい者とは一緒にさせない』と言われて、ある日を境に会えなくなってしまった。悲しみにくれていたところに、新聞で口友会の存在を知って飛び込みました。会員の方に喫茶店で、涙を流しながら自分の話を聞いてもらいまして。そして、『この際だから自分を変える意味で手術をしてみたら?』と、前向きな提案をしてもらったんです」

今回お会いした会員の皆さんは、笑顔が絶えず明るく、元気づけられる方ばかり。「今はお互いを慰め合うというのはあまりありません」とも。

母親の立場の会員からも、お話を聞くことができた。先述したように、口唇口蓋裂の治療にあたって、サポートする家族は多くの情報収集が必要だ。その点、ここに来れば専門家の話を聞く機会もあるし、親同士の情報交換もできる。

「病院などでも当事者の親同士、顔を合わせることはあります。ただ、そこで雑談をしたり、ましてや突っ込んだ質問をしたりするのは難しい。でも、ここに来れば先輩ママが教えてくれます」

例えば、子どもへの疾患の告知をどうするか、というトピックが議題になることもあるそうだ。また、先輩ママの子どもの姿を見て、私の子どももこういう風に育つんだ!とイメージできたのが良かったとも。「縦や横のラインだけではない、“斜めのライン”で学ぶことができる」という言葉が印象的だった。

制度拡充にも大きな役割を果たした

以上のような当事者同士の支え合いに加えて、会はもう一つ大きな役割を担っていたことがわかった。それは、口唇口蓋裂治療にかかる制度の拡充だ。

まず大きいのが、歯科矯正治療の保険適用である。会が発足した50年前は保険が効かず、治療費が「当時の金額で100万円以上」という重い負担があったそうだ。

会はその状況を変えようと、まず議員に問題を訴えた。その中で数名の議員が興味を持ってくれたという。その後、議員が国会で答弁を引き出したことから道がひらいた。1982年に健康保険が適用されることになるまでは、「検討する」と言ったまま当時の厚生大臣が何人も代わり、10年越しの長い道のりだったそうだ。

また、会の働きかけによって口唇口蓋裂は医療費助成制度の対象にもなった。これは国が一部の治療費を負担する制度で、保険適用と合わせ患者の費用負担が原則1割になるように設計されている。ただ、患者の年齢が18歳未満だと「育成医療」という制度で、18歳以上は「更生医療」に切り替わってしまう。

どちらも障害福祉の制度で内容もほぼ同じだが、更生医療では障害者手帳が必要になるなど手続きが煩雑になるという違いがある。障害者手帳の取得に関しては、当事者の心理的抵抗が強かったり、取得しようとしても正しく診断できる医師が少なかったりするのだという。結果として、取得率は全体のわずか7%程度に留まっているそうだ。かといって、育成医療が適用される18歳までに治療を強引に終わらせることも難しい。18歳では骨の成長はまだ完全に終わっておらず、治療の余地があるからだ。

そうした実状を踏まえ、会では育成医療の年齢制限の延長を求めている。また、インプラント治療の保険適用についても会が働きかけを行い、2016年に実現している。

会の歩みでは、積極的な出版活動も目を引く。これまで、1981年に『口唇・口蓋裂児者の幸せのために』、1987年に『心の扉』、1991年に『明日へ贈る』(※絶版)、2001年に『口友会からあなたへ』とコンスタントに書籍・冊子を発行してきた。

とくに、『口唇・口蓋裂児者の幸せのために』は医療への不安と、それに対する全国大学病院の専門医からの詳細な回答をQ&A形式でまとめたバイブル的な一冊で、刷を重ねている。こうした出版によって、会の存在を知り入会した会員も多いようだ。

『口唇・口蓋裂児者の幸せのために』

口友会のこれから

会のこれからと課題はどのようなところにあるのだろうか。先述した制度拡充など、一定の課題解決ができたことで会の活動は落ちつきを見せ、会員数は近年やや減少しているという。とくに、若い世代の会員が少ないようだ。

若い世代に関しては、インターネットで検索をして情報を入手し、SNSで他の当事者とつながることができるので、オフラインの会に参加するメリットを感じないのかもしれない。

しかし、インターネットには不正確な情報も多く、SNSでつながる人は自分と立場や考えが似た人に偏りがちだ。その点、会では書籍出版など確かな情報の蓄積があるし、専門家のお話を聞く機会もある。そして何より、さまざまな当事者と直接顔を合わせることができて視野が広がる。もちろんインターネットの良さもあるが、会に参加することで得られるものは、こんな時代だからこそ多いのではないかと取材を通して感じた。

1件のコメント

  1. 50歳男性両側性口唇口蓋裂患者本人です京都在住です。

    もう昔々の事ですが自分も幼稚園の頃から中学2年頃まで酷いいじめに遭いましたね。未だに?当時も昔もこの“口蓋裂”と言う疾患名はメジャーではありません。自分達が幼い頃に比べ格段に手術式も進歩し、唇裂のみであればほぼ、健常者の方と相違ない位に傷口も目立たず解らない事が多いみたいですが、口蓋裂を伴うと発音障害がネックですね。

    自分は幼い頃、自分が口唇口蓋裂患者である事を中学頃まで伏せられていた(階段から墜ちたと聞かされてました)大きくなるにつれ、幾度とない手術・入院・通院に幼いながらも疑問符が付いていましたね。必ず来院時は形成外科外来とセットで音声外来に通い発音の練習、鼻から空気が漏れる度合いを見る検査を受けてました。顔の成長度合いを見計りながら春休み、夏休み、冬休みを利用し3か月程空けながらの手術してました(うる覚えで13回ほどの手術)殆どが親主導で当時の地元の大学病院の教授にここがどうの等と手術の注文してた記憶があります。中学に入学し疑問を音声外来の主治医にぶつけてみた所、初めて自分が口唇口蓋裂である事、この疾患の発生メカニズムみたいなことを聞かされてある意味納得し、驚きを隠せなかったのを鮮明に覚えています。実は当時行っていなかった治療を30歳を過ぎた時に再開。

    発音に関する重要な手術(咽頭弁手術)上顎の発育不良のため起こる、下顎前突の解消の為に下顎骨矢状分割術(外科矯正&歯列矯正も含む)鼻腔の通気不良があったので下甲骨切除と鼻中隔切除手術、顎裂部への腸骨移植等受け今に至ります。骨移植は上手く行かず、顎裂は残っていますなので歯科で特殊な補綴具を作成して貰い、普段は上顎にはめ込んで生活しています。

    30歳当時、当時の音声外来の主治医に相談してみた所、治療再開に際して、ネックになったのはやはり治療費。18歳までは育成医療が使用可能でしたが、
    それ以降の治療費は自腹。保険適用とは言えとてもじゃ無いですが払える金額ではありません。そこで提案されたのが“障害者手帳”の取得でした。
    音声・そしゃく障害に該当する。宝塚にある口蓋裂専門の歯科医院を紹介されそちらの先生に全てお任せする事になりました。無論、手帳取得には抵抗が無かった訳じゃ無いです。今まで健常者なのか?障害者なのか?と言う心の中の葛藤がありましたからすんなり手帳取得とは行きませんでしたが歯科医院の先生から『使える行政サービスは使いなさい!!』とそこで割り切れる様になったのかな。その資格が自分にはある。と言う流れで全ての通院・手術に適用されたので助かりましたね。

    ももの木
  2. 自分はグループホウムで生活しています❗️とても楽しいです‼️昔自分は口唇口蓋裂で産まれました。当時周りの人からなんで渡井は口👄が違っているの⁉️と言われ悩みました。でもいまは平気です‼️

    渡井健夫です

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