<取材・執筆>鈴木 良壽 <取材先>菅原瑞季さん 大嶋香菜子さん 長谷川友子さん
私が2021年の夏に参加した日本版気候若者会議。様々な背景をもった39歳以下の若者が集まり、気候変動の問題に取り組むため必要な提言について議論が行われました。(詳しくは「日本版気候若者会議に参加したら走り出していた話」をご覧ください)
「提言をつくったら終わり」では、本当の解決には繋がりません。更なる輪を広げていくことが、気候変動問題を解決するには重要です。そこで今回は、気候若者会議の場で出会った3人にインタビューをし、活動の展開を伺いました。人と繋がり、協働を生み出す重要性や方法について、いろいろなヒントをもらえました。
カレー屋をやりながらグリーンアクティビスト! 菅原瑞季さんの歩み
まずは菅原瑞季さん。2022年4月現在、所属する大学を休学し、北欧の生活スタイルを体感するためデンマークに留学しています。
なぜ、デンマークなのか。それは、デンマークが自然と共存する人間の生き方を学べる場であり、グリーンアクティビストが育成されている環境でもあるからです。グリーンアクティビストとは、気候変動に対して自らアクションを起こす環境活動家のことです。
デンマークまで行くほどのアクティブさを有しながら、「実は、野心的な方じゃなくて。意外とビビリで」と語る菅原さん。
「カレー屋やりながらアクティビストにでもなろうかな」とのんびり語る彼女は、どのように人との繋がりを広げてきたのでしょうか。
ファストファッションからスタートした問題意識
菅原さんは昔の自分を、服の生産背景を意識せず「安くてかわいい=いい買い物」だと思って服を買っていたと振り返ります。
しかし、そんな消費への概念を変えるきっかけになったのが、世界的なキャンペーン「FASHION REVOLUTION」の日本支部で「FASHION REVOLUTION JAPAN」のイベントに参加したことです。
そこで、服を生産する裏側の真実を知り、ファストファッションには社会的な課題があることを知ります。そこで出会った「エシカルファッション」というキーワードをヒントに、一般社団法人エシカル協会が行っている、エシカル・コンシェルジュ講座を受講しました。持続可能な世界を実現するため、社会、地域でどう行動しどう考えるのか。いろいろな専門家から学びました。
しかし、菅原さんは「いろいろと知識は広がったものの、横の繋がりがないなぁ…」と感じていました。
「ごみの学校」に集まった類友
横の繋がりを求め、参加したのは「ごみの学校」でした。
「ごみを通してわくわくする社会をつくること」を目標に活動している寺井正幸さんが運営する、ごみ問題に興味関心がある人たちのコミュニティー「ごみの学校」を起点に、広告業界でゼミ活動をする人たちや、同世代の環境活動家たちと出会いました。そして、気候変動への関心や繋がりが広がっていきました。
「1年前は、デンマークに行くなんて思ってもいなかった」
そう話す菅原さん。
「FASHION REVOLUTION JAPAN」や「ごみの学校」など、デンマークへ行くまでに繋がった人たちがいて、今の菅原さんがいます。
そして、グリーンアクティビストとして、デンマークで学んだことを活動に生かしていくでしょう。
プロモーション力が肝心! 大嶋香菜子さんの活動
次にご紹介するのは大嶋香菜子さん。2022年2月現在大学生で、教授や学生とともに気候変動に関する活動を行っています。
大嶋さんへのインタビューの中で一番印象に残ったのは、「プロモーション力などを伴わないと人の心を動かせない」という一言。
なぜ、大嶋さんはこのように考えるようになったのでしょうか。
大嶋さんは、日本版気候若者会議と前後して「甲府気候若者会議」を学生仲間と企画。
「若者同士で話し合いたいという気持ちはもちろん、全く気候変動を知らない高校生や大学生に、少しでも気候変動のことを知ってほしい」と、学内の先生にアドバイスをもらいながら、2021年8月、日本版気候若者会議から講師を招き気候変動問題を話し合う会を開催しました。
オンラインになりましたが、環境問題に関心のある高校生・大学生らが30人くらい参加して、意見も聞けました。しかし、会を終えた大嶋さんは思いました。
「一番参加してほしかったのは、全く気候変動を知らない人たち。そういう人を集客するにはどうすればいいんだろう…」
無関心な人たちとも繋がるため、大嶋さんは次のような場づくりに取り組みました。
みんなの興味のあるものからスタート
大嶋さんの所属する学科の学生は、英語が得意な人が多い。ここに、無関心な人と繋がるヒントがありました。
大嶋さんは、「気候変動」をテーマに場づくりをするのではなく、「英語」をテーマに場づくりをすることにしました。そして作ったのが、「YESS:Yamanashi Environmental Social Society」です。
大嶋さんは、英語でプレゼンをすることにまず興味を持ってもらい、扱うテーマに環境問題を取り上げて関心を広げようと考えたのでした。1年生も多く入ってくれて、メンバーは10人を超えています。
自分を許してくれる場づくり 人や組織をつなぐ長谷川友子さん
最後は、長谷川友子さん。札幌で公共施設職員として働きながら、任意団体snugの代表を務めています。行政や様々な企業などと協働して、ファシリテーションやワークショップデザインをはじめとしたユース世代を対象にした対話の場づくりや、ユース世代のファシリテーターや対話を可視化するグラフィッカーを育成する活動等を行っています。
長谷川さんと場づくりの出会いは、札幌市環境局が2019年に開催した「みんなの気候変動SDGsゼミワークショップ」でした。
気候変動を「最も大きな社会問題」であり、「個人的にちゃんと向き合うのに体力がいる問題」であると、長谷川さんは自身の経験から考えます。
一時は、途方もなく大きな問題である気候変動に関するニュースをまともに見られなかった自分を振り返り、「かつての私のように、問題と向き合いたくないことすら許してくれる環境」が必要だと言います。
気候変動という大きな問題に取り組んでいく活動では、協働や繋がりが大切です。そこで活躍するのは、友子さんのようなファシリテーターの存在なのでしょう。
ファシリテーターを増やしたい!
長谷川さんが、地元企業や札幌市役所と協働で実現した「企業×ユースによるSDGs協働ワークショップ」(通称「SDコン」)に、自ら「ユースコーディネーター」の肩書きで関わる長谷川さんは、ユース世代のファシリテーターをもっと増やしたいと目標を掲げます。
「企業側には、SDGsに関する活動に取り組みたいけど、何からしたらいいかわからないという焦りがある一方で、ユース世代からはSDGsを介して一緒に取り組む人に出会いたい!という声が上がります」と長谷川さんはいいます。
そこで企業とユースが出会い、アルバイトでもインターンでも就活でもない、世代や立場を超えた新たな関係性づくりをするワークショップが「SDコン」です。
ユース世代と企業の出会いの場をつくり、協働を生み出すキーパーソンとなるのが、ファシリテーターだと長谷川さんは話します。ファシリテーターが、「人と人を繋げたり、アイデアとアイデアをくっつけたりして、協働を生み出す」ことが、長谷川さんの活動から見えてきます。
人と繋がり、次々に協働が生まれていく社会へ
今回は、3人へのインタビューを通じて、人との繋がりや協働を生み出すことの重要性、その具体例を見つけることができました。
「市民活動とは、本当の声を出せる勇気をつける場所」と大嶋さんは位置付けました。一方、「大学に行くのと同じように、当たり前の感覚でやるべきことです」と菅原さん。
市民が声を上げ、活動することが普通になるような社会であれば、自然と人と人とが繋がっていくことができるのかもしれません。
あらゆるところで協働が生まれるような社会を目指して、筆者である私も3人との出会いを大切に、これからも活動していきたいと気持ちを新たにすることができました。